甲状腺が腫れる原因は?主な病気や対処法を紹介
鏡を見たときに首の腫れがみられる場合、甲状腺が腫れている可能性があります。
甲状腺とは喉仏の下にあって蝶々のような形をしており、新陳代謝を活発にするための甲状腺ホルモンを分泌している器官です。
脈拍数や体温、自律神経などの働きを調整し、エネルギーの消費を一定に保つなど重要な役割があります。
甲状腺が腫れる原因はさまざまで、中には放置すると命に関わる病気もあります。ここでは、甲状腺が腫れる原因や主な病気、対処法を紹介します。
甲状腺の腫れによる症状
甲状腺の腫れには甲状腺ホルモンの分泌が関わっているケースもあり、この場合はホルモン分泌量が多いか少ないかによって症状が異なります。
ここでは、甲状腺ホルモンの分泌が原因で首が腫れたときの症状を解説します。
甲状腺ホルモンが少ない場合
甲状腺ホルモンの分泌が少なくて甲状腺が腫れている場合、疲労感やだるさ、食欲低下、寒気など、身体的な症状が現れるのが特徴です。
他にも、無気力や眠気、記憶力の低下、皮膚の乾燥、髪の毛が抜けるなどの症状を伴う場合もあります。
このような症状が現れるのは、甲状腺ホルモンの分泌が減ることによって代謝が低下し、全身の機能が低下するためです。
甲状腺ホルモンが低下することを甲状腺機能低下症といい、身体のむくみや無気力などが症状として現れ、そのあとに甲状腺の腫れが生じる場合が多いです。
甲状腺ホルモンが多い場合
甲状腺ホルモンの分泌が多くて甲状腺が腫れている場合、頻脈や動悸、食欲増強、体重減少、多汗、手の震えなどの症状が現れるのが特徴です。
甲状腺ホルモンは代謝機能を調整するホルモンであり、過剰な分泌が起こると、全身の代謝が亢進されて食欲増強や体重減少が起こります。
甲状腺ホルモンが多くなることを甲状腺機能亢進症といい、甲状腺が広範囲に腫れあがる場合も多いです。
甲状腺の一部が腫れる病気
甲状腺の一部が腫れる病気として、甲状腺がんや亜急性甲状腺炎があります。ここでは、それぞれの病気を解説します。
甲状腺がん
甲状腺にできた腫れやしこり(甲状腺結節)のうち、悪性のものを甲状腺がんといいます。
初期のうちは、しこり以外の自覚症状はない場合も多いですが、進行するとのどの違和感や声のかすれ、痛み、飲み込みにくさなどの症状が現れます。
甲状腺がんにかかっても甲状腺ホルモンに異常がみられることは少なく、体重変化やむくみなどの症状が現れないケースも多いです。
がんが進行すると甲状腺の周囲にある神経や気管、食道などにも広がり、息苦しさを感じる場合もあります。
甲状腺がんの種類によっては急速に進行し、のどの腫れが急激に大きくなるような場合もあります。
なかには、1週間で腫れが大きくなる場合もあるため、違和感がある場合は早めの受診が大切です。
亜急性甲状腺炎
亜急性甲状腺炎は、甲状腺内に炎症が生じて甲状腺組織が壊れる病気で、発熱や痛みを伴う腫れが起こります。
炎症によって甲状腺が破壊されると、蓄えられていた甲状腺ホルモンがあふれ出て、血液中の甲状腺ホルモンが多くなります。
そのため、全身倦怠感や動悸、体重減少などの症状を伴うことも少なくありません。
また、甲状腺は固く腫れて押すと強い痛みを感じやすく、特に首の前面で痛みが出やすい特徴があります。
発症してもゆっくり自然に治っていく病気ですが、生活に支障が出るような苦痛を伴うことも多いです。このような場合は症状に応じて薬を投与し、治療を行っていきます。
なお、上昇した甲状腺ホルモンは徐々に低下して正常になりますが、甲状腺内のホルモンが一時的に枯渇し、甲状腺機能低下になる場合もあります。
甲状腺全体が腫れる病気
ここでは、甲状腺全体が腫れる病気を紹介します。
バセドウ病
バセドウ病は、甲状腺機能亢進症の代表的な病気の一つで、甲状腺が広範囲に広がるように腫れあがり、ゴムのような弾性が特徴です。
バセドウ病になると、甲状腺を刺激する自己抗体が作られ、甲状腺ホルモンが過剰に分泌されて新陳代謝が活発になります。
新陳代謝を促進するホルモンであるため、エネルギー消費が激しくなり、寝ていてもジョギングをしているような状態といわれるほどです。
甲状腺を刺激する自己抗体が作られる原因はわかっていませんが、体質やウイルス、ストレス、妊娠などをきっかけに起こるのではないかと考えられています。
バセドウ病を発症すると、顔つきや目つきがきつくなったり、眼が出てくる眼球突出が症状として出てくることもあります。
なお、バセドウ病では首の腫れが初発になるケースは少なく、疲労感や手足の震えなど、新陳代謝の促進に伴う症状が先に出てくる場合が多いのも特徴です。
橋本病
橋本病は、甲状腺機能低下症の代表的な病気の一つで、甲状腺の腫れは表面がごつごつしていたり、硬くなったりするのが特徴です。
免疫の異常によって甲状腺に慢性的な炎症が生じるため、慢性甲状腺炎と呼ばれる場合もあります。
橋本病は、甲状腺を異物とみなす抗体が作られ、甲状腺を破壊して炎症を引き起こし、甲状腺ホルモンの分泌が低下していく病気です。
全身の代謝が低下するため、無気力感や疲れやすさ、全身のむくみなどの症状が現れます。
放置すると、血液中の悪玉コレステロールや中性脂肪が多い状態が持続し、心筋梗塞や狭心症などの合併症を引き起こす場合もあります。
ただし、橋本病のすべての人が甲状腺機能低下症の症状を伴うわけでなく、炎症の程度が軽度であれば明確な症状が出ないことも珍しくありません。
無痛性甲状腺炎
無痛性甲状腺炎は、何らかの原因によって甲状腺の細胞が壊れ、甲状腺ホルモンが血液の中に溢れて出てくる病気です。
しこりや腫れを伴う場合もありますが、症状は一時的で自然におさまり、痛みや発熱を伴わないことから病名に無痛性の名前がついています。
無痛性甲状腺炎は甲状腺ホルモンが増加する時期と、もとに戻っていくタイミングで一時的に正常値よりも甲状腺ホルモンが低下する時期があります。
そのため、甲状腺機能亢進症と甲状腺機能低下症に伴う症状がそれぞれ出やすいのが特徴です。
通常は甲状腺ホルモンの量も自然ともとに戻り、それに伴って症状もなくなるため、治療は行わずに経過観察のみの場合もあります。
単純性甲状腺腫
単純性甲状腺腫は、甲状腺ホルモンや抗体、炎症などの異常がないにも関わらず、甲状腺全体が腫れている病気です。
甲状腺が肥大することで、のどの圧迫感や嚥下困難などの症状が現れる場合があります。
甲状腺ホルモンの産生量は正常であるため、甲状腺の腫れ以外に症状はなく、腫れは自然に縮小する場合が多いです。
ただし、将来的に甲状腺機能に異常が生じる場合もあるため、定期的に検査をして経過観察を行う必要があります。
非自己免疫性甲状腺機能亢進症
非自己免疫性甲状腺機能亢進症は、遺伝子の変異によって受容体の構造が変わり、甲状腺ホルモンを産生し続ける状態です。
バセドウ病のように自己免疫が原因で発症するわけではありませんが、甲状腺機能亢進症で症状が現れる場合もあります。
また、非自己免疫性甲状腺機能亢進症には家族性と非家族性があり、家族性では2世代以上に甲状腺機能亢進症がみられます。
TSH産生下垂体腫瘍
TSH産生下垂体腫瘍とは、脳の下垂体に生じる腫瘍のことで、腫瘍が甲状腺を刺激して甲状腺機能亢進症をもたらします。
甲状腺ホルモンは脳の一部である視床下部と下垂体に調節され、視床下部より分泌された甲状腺刺激ホルモンにより、甲状腺ホルモンが分泌される仕組みです。
この甲状腺刺激ホルモンをTSHといい、脳の下垂体に生じた腫瘍がTSHを過剰に分泌させます。
TSHが無制限に甲状腺を刺激するため、甲状腺の腫れが生じたり、甲状腺機能亢進症で見られる症状が出たりするのが特徴です。
TSH産生下垂体腫瘍は幅広い年齢に見られますが、特に50代から60代で診断される場合が多くなっています。
TSH産生下垂体腫瘍ができるのは、遺伝子の変異が原因の一つと考えられていますが、多くはわかっていません。
治療法としては、TSH産生下垂体腫瘍を手術で摘出する方法があり、手術で取り切れなかった場合はガンマナイフと呼ばれる放射線治療も行われます。
腺腫様甲状腺腫
腺腫様甲状腺腫は、甲状腺の細胞が増殖してしこり状に発達しているもので、しこりが少数の場合は腺腫様結節と呼ばれる場合もあります。
甲状腺が腫れることを除いて目立った症状はみられませんが、しこりが大きくなると声のかすれやのど周りに違和感を覚える場合もあります。
しこりが大きくない場合は治療の必要はなく、経過をみるだけで問題ないケースも多いです。
ただし、しこりが大きくなって腫れが目立って気になったり、がんが含まれていたりする場合もあるため、医療機関で詳しい検査を受けておくとよいでしょう。
甲状腺が腫れている場合の対処法
甲状腺の腫れにはさまざまな病気が隠れている可能性があるため、適切に対応することが大切です。ここでは、甲状腺が腫れている場合の対処法を紹介します。
放置しない
甲状腺の腫れをもたらす病気の種類によっては、治療をしないと悪化する可能性があるため、放置は厳禁です。
例えば、バセドウ病の場合だと治療しないで放置すると甲状腺機能亢進症の影響が全身におよび、心不全をもたらす場合があります。
また、甲状腺クリーゼと呼ばれる重篤な病気を引き起こし、複数の臓器の機能が低下し、呼吸停止や高熱、意識レベルの低下が起こる場合もあります。
良性腫瘍であれば放置しても問題ないですが、その腫れが良性か悪性かを個人が判断することはできません。
甲状腺がんによる腫れを良性腫瘍と勘違いし、放置して取り返しのつかない状態になるリスクもあります。
医療機関で検査を受ける
甲状腺に腫れがある場合は、症状がなくても医療機関で検査を受け、原因を特定することが大切です。
甲状腺の検査では、血液検査や超音波検査が行われます。血液検査では甲状腺ホルモンが多いか少ないかを確認し、下垂体から分泌される甲状腺刺激ホルモンも測定します。
また、超音波検査では腫瘍の有無を確認し、腫瘍が確認できる場合は大きさや数、構造なども調べ腫れの原因を特定するのが検査の一般的な流れです。
甲状腺疾患は他の病気と間違って診断されることも多いため、検査を受ける際には甲状腺の診察や、治療に特化している医療機関を選びましょう。
治療を受ける
医療機関で検査を受けて甲状腺の腫れの原因がわかったあとは、病気の種類に応じて治療を開始します。
例えば、バセドウ病の治療だと病気の治療のために内服薬や放射性ヨードを用いて、場合によっては外科的に臓器を切除する場合もあります。
橋本病の治療だとホルモン製剤を内服し、ホルモンを補って身体を正常な状態に近づける治療が有効です。
甲状腺の腫れの治療にかかる期間は病気の種類によって異なり、長期に及ぶ場合もあります。
しかし、甲状腺の病気の多くは早期に正しい診断を受けて適切に治療を行えば、命に関わることは少ないです。
そのため、甲状腺の腫れがある場合や気になる症状がある場合は、早めに医療機関を受診しましょう。
まとめ
この記事では、甲状腺が腫れる原因や主な病気、対処法を紹介しました。
甲状腺の腫れは、甲状腺ホルモンが過剰に分泌される甲状腺機能亢進症や、甲状腺ホルモンの分泌が甲状腺機能低下症によって引き起こされる場合があります。
それ以外にも甲状腺がんや遺伝的な要因、良性のしこり、炎症など、甲状腺に腫れをもたらす原因はさまざまです。
甲状腺の腫れの原因によっては治療が必要になるため、早めに医療機関で検査を受けましょう。
甲状腺の腫れが気になる方は、はまゆり糖・生活習慣病クリニック溝の口にご相談ください。
当院では内分泌専門医を取得し、甲状腺や下垂体、副腎などの内分泌疾患の診療経験を積んできた医師が診察を行います。
当院では採血で甲状腺機能を評価し、超音波(エコー)検査で腫瘍の有無や形態の評価を行い、内科的治療につなげていきます。
まずは、お気軽にお問い合わせください。